出典:リアルアンサーズ15号

 
 「ユーザビリティ」は、まだ日本では聞き慣れない用語ですが、ISO9000シリーズに追加された9241・11で「使用性」として定義された新しい概念で、「誰にでも使いやすい設計」を目指すユニバーサルデザインとも一脈を通じ、最近注目を集めつつある考え方。「利用品質」と呼ぶ人もいます。
 このユーザビリティとは、パソコンや携帯電話をはじめとする民生用ハードウェアおよびソフトウェア、クルマや住宅、さらに駅・空港・病院など公共インフラのシステム、店舗・旅館・ホテルなどの設備空間やサービスに至るまで、人間が使う有体財および無体財を対象として、可用性(使いやすさ)や使用性(使い勝手)の観点から評価し、場合によっては可用性・使用性を向上させる提案をするものです。
 ユーザビリティ研究を専門とする黒須正明先生(独立行政法人メディア教育開発センター)は、その考え方について次の
ように説明します。
 「ユーザビリティは、CS(顧客満足)やサービス品質を高めるうえで不可欠の要素。例えば、使いづらいコンピュータ(ハード・ソフト)、欲しい情報を入手しづらいインターネットのWebサイト、乗り物に乗るまでに手間と時間のかかる交通システムなどをつくっている企業。運営している企業は、CSやサービス品質が高いとは評価できません。特に、公共部門のシステムに関わっていながらユーザビリティを軽視している企業は、CSR(企業の社会的責任)観点から見ても、問題があると言わざるを得ないでしょう。
 実際、こうした考えは徐々に広まっており、日本でも製造業の大手企業では、ユーザビリティ担当者や担当部署を置くケースが多くなっています」。


 では、トラック輸送企業が、ユーザビリティ観点から業務改善し、サービス品質を上げるには、どんな点に注力したら良いのでしょうか?黒須先生は、最優先すべきは「ユーザーと現場を重視すること」だと指摘します。
 「ユーザビリティの要点は、人間中心設計、それもユーザー(顧客)中心に業務を設計していくことにあります。ユーザーと接しているのは現場ですから、当然ながら現場重視になりますね。けれど、自らの仕事を“使う側の身になって”“ひとつひとつの現場から”変えていくのは、なかなか難しい。トップが大号令を発しても、現場が変わるという保証はありません。どの企業もそこで苦労しているのですが、それをやり遂げた企業だけが成長を手に入れるでしょう。
 ユーザーの意見を聞くと言っても、ユーザーは多様であって、しかも本音を聞き出すには、インタビューのスキルや人間心理を考慮した洞察力が必要です。現場でユーザーに接しているドライバーから得られる情報も玉石混合で、ユーザビリティ担当者は、そこから有益な情報を見い出す能力が求められます」。
  しかし、ユーザビリティやCSやサービス品質向上の鍵は、現場にしかないのも事実です。自社の現場力が、どのくらいのレベルか客観的に判断せずに、現場力を高める個別具体策は立てられません。
 「自社サービスをユーザーの立場で使ってみて、現場ドライバーの対応をチェックする。顧客からのクレームに対し、現場担当者の“その場しのぎ”で処理するのではなく、必ずレポートに残し、それを業務管理者がチェックする。これらは、基本です。
また、一度や二度のユーザー調査で満足せず、短期間でユーザーニーズが変化することを考慮し、顧客の意見は定期的にキメ細かく確認することも大切です。さらには、複数の他社ユーザーから意見を聞いて、自社サービスの強みや弱味を把握し、長期的視点から、業務改善につなげていくことも重要です」。


黒須正明
静岡大学情報学部教授

1971年早稲田大学第一文学部心理学科卒業、1973年同大学院修士課程修了、1978年同大学院博士課程単位取得満期退学。同年(株)日立製作所入社、1988年同社デザイン研究所に異動。2001年9月、独立行政法人メディア教育開発センターに教授として赴任。ヒューマンインタフェース、特にユーザビリティについて研究。


   

 
 物流ビジネスと物流企業の人材教育に関するコンサルタントとして、日本全国の企業・共同組合・トラック協会に出向いて講演やセミナーを精力的にこなす岩崎仁志さん(有限会社H・Iプラニンニング代表)も、トラック輸送企業が優れた「輸送サービス事業者」として存続成長するためには、「現場力のレベルアップが欠かせない」「現場を支える個々人のモチベーションや向上心を下げないコスト効率化が必要」と明言する専門家のひとりです。
 「顧客第一主義を理念に掲げる会社は多くありますが、この理念の実現のために現場第一主義を社内に浸透させ具体的な改善活動を続けている会社は、実際のところ、そう多くはありません。
 私は、現場力のベースは、安全運転を徹底することと考えています。事故をなくすという目標は、経営者側とドライバー側の利害が一致するポイントであって、しかも荷主の信頼を高めることができる重要点です。安全の強化と、それを実現するためのドライバー教育重視は、対顧客サービスそのもの。直接には対価を要求できませんが、中長期に考えれば、リピーターないし安定顧客を増やすことによって利益を上げることができる"攻め"の戦略と言えます」


 もう一点、岩崎さんが強調するのはコストと人材の兼ね合いですが、これに関しては「ストレートな給与削減策を取らず、仕事に関して筋肉質の個人をできるだけ多くすべき」と話します。
 「競争力と収益力のある会社=強い会社=筋肉質の会社とすると、まず、筋肉質になるには、無駄なコストを減らすことです。多くの物流企業を訪問して驚くのは、本社管理コストの高さ。売上に対し15%を超える企業もありました。黒字会社の本社費用は総じて15%以下です。企業規模や業容によって異なりますが、理想としては10%に近づけるべきと考えています。
 次に物流企業においてコスト全体の約40%を占める人件費の最適化ですが、これは、売上が減ったら給与を削減するのが当然とおっしゃる方がいますが、私は、この意見に賛成しません。なぜなら、この方策は、現実的な効果は短期間で出るものの、筋肉質の会社になるために最も大切な個々人のモチベーションや向上心を削ぐ恐れがあるからです。
 理想的なコスト削減は、ストレートな人件費の削減ではなく、成果配分主義を導入する等で、人事制度そのものを改革することだと考えています。それに加え、安全の徹底や物流品質の向上で、事故対策費用・燃費・損害保険料等を圧縮すれば、競争力のあるローコスト・オペレーションが実現できるでしょう」
 何と言っても、会社を構成するのは個人です。筋肉質の個人が集まる会社は、当然、筋肉質の会社になり得ます。岩崎さんによると、日々の仕事において贅肉のつきやすい人とは、次に挙げるような人で、これらにあてはまる人が多いと筋肉質な会社作りは難しいと指摘します。



 「現場力の源泉である個々人が、自社の進める業務の付加価値化・サービス業化に、参画意識を持って挑戦することができるかどうか。ここが分かれ目になるでしょう。
 ここで必要となるのは、社員やパートとして現場を支える一人一人が、思わず自慢したくなるような会社、誇りを持てる会社に変えていく!という明確な経営意志です。経営サイドの役割と言ってもいいでしょう。
 また、経営意志を目標として表現する場合には、時間・件数・金額などでハッキリと数字化して社員に対して情報公開することも、輸送サービス競争力の高い企業として存続成長していくポイントのひとつだと考えています」


岩崎仁志
有限会社H.I.プラニンニング代表

1979年西南大学卒業後、日本YMCA、タイム・ライフ・ブックスジャパンを経て、物流ニッポン新聞社入社。広範な取材活動に加え、企画部門の責任者としてロジスティクスシステム展、国際フォーラムなど物流関連のイベント等の企画運営を行なう。一方、L−Ric研究所の主任研究員として物流企業向けのコンサルティング、講演活動を展開。2002年物流業の地位向上を目指して、物流コンサルティングのHIプランニングを設立、翌年有限会社H.I.プランニング創立。現在は損害保険大手、ソフトウェアメーカー、物流企業の顧問の他、講演活動を幅広く展開。



【特集】
「サービス業」はどこが違うのか?
そもそもサービスとは何か?
「サービス業化」は、時代の必然か?
サービス向上のためのキーワード「ユーザビリティ」/「現場力」
【ケーススタディ】
株式会社アップル/・エビス運輸株式会社/・株式会社タムラコーポレーション
【サービス業の基礎としてCSRはなぜ必要なのか?】
リコーロジスティクス株式会社/株式会社トーマツ環境品質研究所/
CSRを理解するためのQ&A

【総論】
「サービス業化」。安全・丁寧・確実という普遍の追求こそが、新たな時代を築く。